昨日の記事相続人の一人が行方不明なんですけどどうすればいいですか - 南さつま 相続・遺言相談室と同様に、相続手続において困難となる場面があります。事例を設定して見たいと思います。
この度、お父さんが亡くなりました。残された家族は、お母さんと兄と妹の3人です。実家の土地と家は、父名義でしたので、母名義に変えたいと思います。最近、知人から聞いた話によると、今年の令和6年4月1日から相続登記が義務化されたようです。もし、相続登記を放置すれば罰則があるらしいです。
そこで、相続登記するのにお金も掛かるのですが、この際、母名義に変えたいと思っています。母は、現在、介護施設に入所しています。日々、認知症がひどくなっている状態です。状態がいい日は、自分の名前も何とか書けるかも知れません。こう言う状況の下で、名義変更はどのようにすればいいのでしょうか?
結論から言いますと、このままでは、お母さんは遺産分割協議をすることができません。そもそも、認知症なのか、認知症なら、その程度はどれくらいなのかは、医師の診断書が必要でしょう。
もし、お母さんに無理やり遺産分割協議書に名前を書いてもらうことができたとしても、その遺産分割協議は無効となる可能性が高いです。遺産分割協議は法律行為なのですが、法律行為を組成する意思表示が不十分であれば、本人(お母さん)保護のため、その意思表示は無効とするのが、民法の理論です。(民法3条の2) ここで、難しい話はしたくなかったのですが、ご理解いただけると思います。
以上のことは、金融機関での相続預貯金の解約手続も、同じ理屈で出来ない事になります。金融機関の窓口で、こんな大声が聞こえてきそうです。
「じゃぁ、聞くけど、父の預金はどうなるんですか! 母は、字が書けないんですよ!そこら辺、融通利かすくらいあってもいいんじゃないか? あんたじゃ話にならん! 上司を出してくれ!」と興奮してトラブルになる場面が想定されます。
この時、金融機関の担当者は、こう言うでしょう。「家庭裁判所に成年後見人の選任申立をされたらどうですか?」
残念ながら、こうなります。成年後見人選任申立手続きは、申立から数か月は掛かります。成年後見人が選任されたとしも、毎月、定額の報酬を支払い続けなければなりません。(民法843条)
もし、お父さんが遺言書を残しておいたらどうなるでしょう。
「土地と家は、長男〇〇に相続させる。〇〇銀行の預金は、すべて長女〇〇に相続させる。」
そして、遺言書の最後に、付言事項として、「以上のとおり、私の財産は全て子供であるお前たちに託すことにしました。その代わり、くれぐれも、お母さんのことを頼みます。これからのことは、二人とも仲良く、二人で力をわせてやって行くように頼みます。」
この様な方法もあるかなと思います。
民法 - e-Gov法令検索から、関連条文を引用します。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
第二節 意思能力
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
(成年後見人の選任)
第八百四十三条 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
2 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。
3 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
4 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
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